金閣寺

in #worldheritage5 years ago


70年前のきょう、京都で金閣寺が焼失しました。14歳の徒弟僧だった江上泰山さん(84)は午前3時ごろ、異様な音に眠りを破られました。障子には炎が映っています。慌てて飛び出すと、天を突く火柱が見えたという。

「シャッ、シャッと松の葉が音を立てていました。散水器も消火用の砂も役に立ちませんでした」。すさまじい火勢にだれもが立ち尽くす。金閣を囲む鏡湖池に火の粉が花火のように降り注ぎました。

21歳の兄弟子が火を放ったとわかったのは夜が明けたあと。点呼に一人だけ姿がなかった。居室はもぬけの殻で碁盤と目覚まし時計が残されていました。夕刻、寺の裏の左大文字山で発見され、連れて行かれました。

兄弟子は出所からまもなく26歳で病死しました。「いくら考えても、火を放たなくてはいけないような事情は思い当たらない。あの夜、あの一瞬だけ何かが外れたとしか言いようがありません」と江上さん。刑務所からは「お許し下さい」と懺悔する手紙がたびたび届いたという。

三島由紀夫の『金閣寺』を読み直しました。金閣の美に魂を奪われたとの見立てはなお古びていないです。もう1冊、水上勉が20年かけて動機に迫った『金閣炎上』は、地味ながらズシリと心に響く。終戦から5年、貧しい学僧の胸には、復興の上り坂からひとり取り残されるような焦燥がなかったか?

梅雨の晴れ間に金閣寺を歩きます。再建がかない、昭和の大修理をへて、世界遺産にもなりました。70年前の青年僧の一瞬の狂気の跡は、境内のどこにも見えなかったです。

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